ついえる星

抱きしめたことなど無い。

その眠りの健やかさを祈る接吻すらも与えてやったことは無い。

感情のままに行動するのも、そのように頻繁に接触するのも、下々のなす行為であり、我

等はそのような無様な真似はしない。

いつまでも毅然と誇り高く、傲然と面を上げ、他を導く信頼にたる冷静な姿であらねばならぬ。

それでも、愛していた。

私のシリウス。

私のレグルス。

どうして愛さずにおられようか?

私の子供。

この血肉をわけし、我が一族の子よ。

どうしてその子を憎めよう?

厭えよう?

私達はとても数が少なくなってしまって、いつだとて大勢の穢れたものに追われる危険性を秘めている。

だからこそ。

それに対抗する為にこそ、結束を深め、血族を愛さねばならない。

その和を乱す者は厳しく処断し、崩壊に繋がる前にその不和の根を取り除き、再び固く固く絆を結びなおさなければ。

けれど。

ねぇ、けれど。

その命を奪わなければならないのに、そうできないほど愛しくて。

追放で済ませてしまった最初の者の過ち。

ああ、よく分かる。

愛しいのだ。

裏切りの血であろうと、終焉を招く存在であろうと。

 

シリウス。

 

私の子。

愛していたのよ。

失われてしまった、私の二人の子供達。

もう、二度とも戻ってくることは無い。

ひとつはこの手の届かぬ彼岸へ。

ひとつはこの心の届かぬ果てへ。

ああ、あなた。

私の夫。

私の弟。

私と同じ血をひくあなた。

貴方までもがいってしまった。

もう、この血は絶えて消えうせてしまう。

どうして生きている意味がある?

愛しい者達を失って。

守るべき、愛すべき血族を失って。

私は、血族を守る為に生きてきたというのに。

ああ、もう意味がないのよ。

 

「大奥さま、どうかお願いです。少しでもお食事を」

 

ああ、クリーチャー。

そうね…貴方がいたわね。

いつも忠実で、献身的に私に仕えてくれた。

決して裏切らないとわかっていたから、私は貴方の前では気を緩められたのだわ。

おかしいわね。

子供達にすらそのままにこの愛しさを表せなかったのに、貴方には表せたわ。

だって、私が示さなければならなかったのだもの。

ブラックのあり方を、誇りを、私は私の姿勢によって、子供達に伝えたかった。

私が、そうして父から学んだように。

失敗してしまったけれど。

なにがいけなかったのかしら。

あの子がそれを欲した時に、与えてあげればよかった?

我慢しなければよかったのかしら。

私が欲しかったそれを、父の誇り高き姿への憧憬と摩り替えた、優しいぬくもりを求めたことを。

欲しいと思ったそれを、本当はあげたかった

でも、私はそんなもの与えられなくて、どう上げたらいいかわから無くて、示さねばならなくて。

あの子はそれをレグルスに求めて与えて、レグルスは受けたそれを返して…ああ、本当に二人の道が外れてしまったのは、私のせい?

わからない

もう何も分からないの。

なにがいけなくて、なにが正しかったのか。

 

「大奥様!!」

 

さようなら、クリーチャー。

貴方を残してしまう、私を許してね。